■坂の途中の家   角田光代


 2歳の娘がいる専業主婦の里沙子は、乳児殺害事件の補欠裁判員になる。被告は孤立した子育てから、自分の子どもを殺した母親 水穂。

里沙子は裁判に参加するうち、水穂と自分を重ねてしまう。

夫の陽一郎は理解のある態度だが、本当にそうなのか。優しさで包んだ言葉が、実は自分の考える力を失わせる悪魔の言葉なのだと気づく里沙子。その場を丸く収めるために自分の意見を押し殺し、相手に合わせていくうち、自ら考えるという行為すら忘れてしまっていた。しかも恐ろしいのは、それが愛という名の下に行われているということなのだ。

里沙子は自分の頭で考え、補欠裁判員の任務を終える。それは、母親や夫から、愛情という名前で包んだ束縛を受けていた彼女自身の解放でもあった。

 

私も水穂と自分を重ね、また里沙子と自分も重ねた。女性の自立とは何かを深く考えることが出来る小説だ。(Y.M) 2017.12.14

 

さよならのあとで

詩・ヘンリー・スコット・ホランド、絵・高橋和枝.  ( 夏葉社)

 

作者のヘンリー・スコット・ホランドは、1846年生まれ。およそ100年前の1918年に没した英国教会の神学者です。

Death is nothing at all」で始まる24行の詩は、彼の母国イギリスで、長いあいだ、多くの喪の場面で朗読されてきたそうです。

2009年、当時30代の男性がたった一人で作った出版社・夏葉社によって、初めて日本語訳の一冊の本になりました。従兄を事故で亡くした彼は、どん底の悲しみの中、この詩に出会いました。そして「この詩を出版しよう。」と決意します。そう、この詩を本にするために一人で出版社を起業したのです。そのあたりの経緯は、「あしたから出版社 島田潤一郎(晶文社)」に詳しく書かれています。

高橋和枝さんの描く控えめなモノクロのイラストが、深い詩の世界に遠慮がちに添えられています。ページをめくり、彼女の絵に触れるごとに、一筋の温かな光がこころの中に差し込んで、その光の先端からじわじわと体温が上がっていく、そんな感覚。「癒し」というコトバの意味を体感する経験でした。

冒頭を少しだけご紹介します。

 

  Death is nothing at all.

  I have only slipped away

  into the next room.

  I am I and you are you.

  Whatever we were to each other 

  that we are still 

  死はなんでもないものです。

  私はただ

  となりの部屋にそっと移っただけ。

  私は今でも私のまま

  あなたは今でもあなたのまま。

  私とあなたは

  かつて私たちが

  そうであった関係のままで

  これからもありつづけます。

 

少し厚めのザラザラした紙質、シンプルな表紙の模様にも凹凸があり、装丁にもこだわりぬいたことがうかがえて、ふと触りたくもなる一冊です。N.H)2017.1.30

 

 

消滅世界 村田沙耶香(河出書房新社)

プロローグでヒロインの雨音は恋人に言われる。
「雨音って、最後のイヴってイメージなんだよな.....」
近未来なのか、架空の世界なのか。人々が結婚と性交を別物として捉えている世界。雨音は大多数の人間がしているように、アニメのキャラクターに恋をしていた。狂おしいほど相手を思い、一つになりたいと願う。それはヒトとの恋愛と大差ない。むしろトとの恋愛よりも純粋かもしれない。
そういう世界にも家族を作るというシステムは残っていた。違うのは夫婦間に恋愛感情はなく、夫婦以外の相手と恋愛するのが当たり前になっているというところ
雨音は朔と結婚し、それぞれ恋人を作り、朔とは性の介在しない穏やかな家族としての生活を営んでいた。しかし朔が恋に悩み、雨音を伴って千葉にある、政府に管理された実験都市に移住することにする。そこは「楽園(エデン)」と呼ばれていた。

恐ろしい、ただ恐ろしい小説。人がどうして人となりえるのか。固有の遺伝子と、様々な感情と、他人と違う経験とを積み重ねて、その人となる。しかし昨今の若者たちの草食ぶりを見ていると、小説の世界が現実になるかもしれないと、ふと思ってしまう。清潔な都市で管理されて生きるということは、人の存在の根源でもある「愛し合う」欲望さえも不浄なものとして扱われる。責任もない子育てで、まるで愛玩動物のように育てられた子どもたちが、人間らしく成長するのだろうか? 不特定多数の大人から可愛がられた子どもたちは優秀な人間に育つという(小説の中の)データがあるらしいが、その優秀さというのは、施政者にとって都合の良い優秀さではないだろうか。
「みんなちがって、みんないい」
多様さを欠いた世界は危ういと思う。

猥雑な世界が愛おしくなってきた。

(Y.M)

 

 

WORK LIFE STYLE BOOK~可愛いままで年収1000万円になる♡~  宮本佳美

 

この本は、“可愛いままで年収1000万円”という、なんとも衝撃的なタイトルの本を出版された、宮本佳実さんの4冊目の本になります。宮本さんは、28歳でパーソナルスタイリストとして起業され、現在はワークライフスタイリストという職業を確立し、1年間に4冊も本を出版する活躍をされています。

とても可愛い装丁と気になるタイトルで、本屋さんで手に取ってパラパラとめくってみました。好きなことを好きな時に好きなだけ、という夢のような仕事のスタイル❤そんな(ゆるふわ)なビジネスのスタイルを提唱しています。私を含め、あこがれる女子、続出です(笑)

ビジネスに関しては、マーケティング、ブランディングの仕方をわかりやすく解説してあります。ビジュアルブックなので、たくさんの素敵な写真が掲載されていて、見るだけでも女子力アップ間違いなしです

 

自分の得意なこと、好きなことは何かを見極め、ビジネスになる部分を探し、理想の未来をノートに書き出す。今すぐできる夢への第一歩。願い、動き、夢が叶う。自分の好きな事は何か、夢は何か。読んでみると久々に自己分析してみたくなる、一冊です。

(M.H)

 

 

ロマンシエ 原田マハ


イケメン画学生 道明寺美智之輔が絵の勉強の為に訪れたパリ。そこで出会ったハルさん、ムギさん、サキちゃん、パトリス。そこに美大時代の同級生 ( というか片思いの相手 ) 高瀬君がやって来て、まるで小説のようなお話が展開する。 ( 小説なんだけれど )
純粋で真っ直ぐな美智之輔が、パリの工房でリトグラフに取り組みながら小説家のハルさんを守る姿がいじらしく、魅力的。
小説中に散りばめられたパリの名所に加え、ピカソ、ロートレック、シャガールや現代アートのアーティストの名前も盛り込まれ、小説好きも美術好きも、おまけに旅行好きも大満足な作品。
作者と同年代の読者には懐かしくて堪らない言葉の数々にも魅せられる。 ( 鏡を見ながらテクマクマヤコンとか )
美智之輔と一緒に、思いっきり泣いて笑って楽しめて、改めて小説とアートが大好きだと気付かせてくれる作品だった。

(Y.M)