■空がレースに見えるとき (エリノア・L・ホロウィッツ 文  バーバラ・クーニー 絵 しらいしかずこ 訳  ほるぷ出版)

物語の季節は、秋から冬ごろでしょうか。まず一番に感じられるのがシーンとした澄み切って冷たい空気感と夜の森のにおい。次に、小動物たちのうごめきの気配が。聞こえてくるのはざわざわと風に揺れる木々のこすれあう音。ほのかに香るのは、パイナップルソースの香り。歩いてもいないのに、なぜか感じる足の裏のベルベットを踏んだような感触。

ちょっと視線を持ち上げ空を見てみる。そうすると空がレースに見えるというビムロスの夜を、空想してみることができるかもしれません。

バーバラ・クーニーの幻想的なイラストの世界を感じて、晩秋の大人の夜に。

2017.11.11)(NH

 

 

   星空(ジミー・リャオ作・絵、天野 健太郎訳 トゥーヴァージンズ)

 2017年、台湾の有名な作家ジミー・リャオ(幾米)さんの2009年出版絵本『星空』の日本語版が、ついに出版されました。わたしがジミーさんを知ったのは、映画『サウンド・オブ・カラー地下鉄の恋』を見て、原作絵本(注1)も読みたくなったから。この他にも映画化された作品は幾つかあり、金城武主演『ターンレフト・ターンライト』(注2)などが知られています。実はこの『星空』も映画化されましたが、日本では映画祭(注3)で上映されたのみです。

物語は、孤独な少女が少年と出会い、家族も学校もやり過ごし街を出ます。二人だけで過ごす、絵だけで語られるシーンの数々は心に残ります。詩的な文章と、物語の「細部」が描きこまれた絵。良質な紙に鮮やかな印刷で、手元に置きたくなる本です。少年少女も大人も、すぐに本屋さんへ走って、ぜひ実物を手に取ってください。そして家に連れ帰ってくださったら、次の翻訳本出版へ繋がるかもしれません。(注4)

ジミーさんの本が日本でもたくさん出版されたら、映画『星空』も劇場公開されるかも…映画好きのわたしのそんな下心もあり、『星空』を紹介しました。(2017.4.12)(R.K)

 

(注1)『地下鉄』(宝迫典子訳 小学館 2002年)

(注2)『君のいる場所』(宝迫典子訳 小学館 2001年)

(注3)2012年 第7回大阪アジアン映画祭

 http://www.oaff.jp/2012/program/screening/10.html                  

(注4)台湾では50作近くが出版されていますが、邦訳はその四分の一ほど(筆者調べ)

 

いちねんせい(谷川俊太郎・詩 和田誠・絵 小学館)

 

何と言っても谷川さんの詩はリズムがあってとてもいい。
だまーって読むんじゃなくて、ぜひ声に出して読んでみてください。
ページに貼り付いていた文字が、元気に踊りだします。

題名のとおり、小学校に入学して何もかも目新しくって、ドキドキして、そして色んなことが知りたくなる、一年生の気持ちを詠んだ詩がいっぱい。

黒板に書かれたひらがな。
担任の先生。
学校の庭が「こうてい」っていうこと。
好きな男の子のこと。
他にも色々。

「いちねんせい」をやってからずいぶん経ってしまった人も、この絵本を読めばすーっとあの頃の気持ちに戻れます。

特におもしろいのが、「わるくち」という詩。
ケンカしてる2人のやり合い(かけ合い⁉︎)。
これ、早口で読んだら子ども達にうけること間違いなし。

ピカピカのランドセルを背負った一年生に出会う 春4月におすすめの一冊です。          (2017.4.4)(M.N)

 

 

はるがきたジーン・ジオン文 マーガレット・ブロイ・グレアム絵 こみやゆう訳  主婦の友社)

 

 

「ねえ!どうしてはるをまってなきゃいけないの?まってなんかいないでさ、ぼくたちでまちをはるにしようよ!」

って、その発想!子どもってスゴイね!

子どもたちのその能動的な提案を、ちゃんと受け止めて共感する大人たちも素敵です。さあ、市長さんまで巻き込んで、町中を春にする大作戦開始!作戦内容は・・・表紙のイラストでわかっちゃいましたね。そう!みんなで町じゅうに春の絵を描いていきます。そして、その先に、もっと温かくて楽しい展開が待っています。題名通り、読んだ人のところには、きっとはるが来ることでしょう。

イラストの配色がきれいですね。ページを進めるごとに色がどんどん増えていくのも素敵です。

「どろんこハリー」の作者コンビの作品。本の中に、ハリー(らしきワンちゃん)も登場しています。心が和むのは、見慣れたイラストによる安心感もあるのかもしれません。

風は冷たいけれど、太陽の日差しの色は確実に春に向かっています。そんな今の季節にぴったりの一冊です。2017.2.21)(N.H

 

二匹のいけないあり        (クリス・ヴァン・オールズバーグ作、村上春樹訳)

 

ありんこが、どんなにいけないことしたんかな?って思ったら、まあ!可愛らしい好奇心と冒険心。全然いけないことなんかないやん。むしろむっちゃほほえましくて、読んでるこっちは、クスクス笑いで幸せいっぱい。予定通りの行動より寄り道する方が、よっぽどステキな人生やもんね。ハラハラしたけど、最後は無事に・・・?

 

村上春樹さんは、オールズバーグの絵本を何冊か翻訳されています。クリスマス絵本の定番となった「急行・北極号」に次いで有名なのは、この「二匹のいけないあり」ではないでしょうか。男の子を育てたお母さん、特に共感してくれるはず。お父さんのダイナミックな読み聞かせにもいいかもしれません。そして何より、毎日毎日忙しく、前だけ向いて超特急な毎日を過ごしている大人たちへ~少しだけ寄り道する余裕を持って、わくわくしちゃいましょう!

(N.H)

 

 

ことりのおそうしき         (マーガレット・ワイズ・ブラウン作、クリスチャン・ロビンソン絵、なかがわちひろ訳)

 

原題は「The Dead Bird

おしゃれな邦訳です。死んでしまっている小鳥に対する子どもたちの温かな愛情が伝わってきます。何より「死」と対極にある「生」を強く感じる絵本でした。そして、一番素敵だなあと思ったところは、物語に登場する子どもたち4人の肌の色と髪の色が、みんなそれぞれに違うところ。日本に生まれ育っていると、この状況を違和感なく受け入れるのは難しい。子どもたちには、せめて絵本の中での気付きになればと強く思います。さて、この書評を書いた直後、『「死」は「生」の対極にあるのではなく、その一部として存在している、』という文章に出会いました。確かにそうなのかもしれないと思うことで、この絵本の味わいがますます深くなりました。

「生」と「死」をしみじみと見つめ、世界が繋がっていることをきちんと気づかせてくれる素敵な絵本。子どもだけでなく、大人にこそじっくり味わってほしい一冊です。

(N.H)